岡崎 おはようございます。
渡部 一ヶ月ほど前、岡崎さんは産経新聞に論文をお書きになりました。岡崎さんは 最近日本の近代史を勉強されていますが、その蘊蓄(うんちく)の余滴というところが見え、われわれ昭和史を多少知っている者には非常にグサッと来た。日本が戦争に入るのを止める最後の切り札は、宇垣内閣だと書いてあった。だが、宇垣内閣がなぜ誕生しなかったか。遡るわけですが、犬養さんと宇垣さんとは仲がよかった。
岡崎 仲がよかったんです。
渡部 朝鮮総督府にいた宇垣さんは、「いま陸軍はもめてごちゃごちゃしているけれど、二人だけは[陸軍大臣に]してはいけない」という手紙を犬養に送った。「真崎[甚三郎]大将と荒木[貞夫]大将を[陸軍大臣に]してはいけない」と書きたかったが、名指しにしなかった。
岡崎 宇垣が東京にいれば、電話で「あの二人は駄目だ」よと言ったでしょうね。で も手紙ですから、その二人だけは駄目だということがわかるような表現を使った。で もそれは犬養はわからなかった。
渡部 通じなかったんですね。それで荒木大将が陸軍大臣になってしまった。皇道派が台頭し、二・二六事件まで連なって、宇垣内閣をつぶすところまでずっとつながっ て行く。
同じように、どうしてもこの人は要職につけてはいけない人がいるんだ、という立場から、自民党のいちばんの中心の人物(加藤紘一)を、「この人だけは外務大臣と首相にしてはいけない」と名指しで書くという大変画期的な論文(産経新聞、98年7 月14日掲載)をお書きになったんですね。
岡崎 あれはちょっとお恥ずかしいんですが。
渡部 今、どこに行っても、ものを多少でも書いたり語ったりする人は、あの論文を話題にしています。
岡崎 最近は、といっても犬養の時もそうなんですが、物事を人物で見るよりも、年功序列とか、成り行きとか、もうそろそろこれをしてもいいんじゃないかとか、そういう基準で見る。ふつう、それで良ければいいんですが、それで間違えることがあるんですね。荒木という人は、年次から言ってちょうど陸軍大臣なんですよ。それで部 下の噂を聞いてみると、別にそう悪くもない。じゃあ順当なところだと。その危険性 を知っていたのは宇垣なんです。でもそれを伝え損なった。
渡部 宇垣さんはあの頃、蛮勇か大勇を奮って軍縮もやりましたしね。
岡崎 あの実績がありますから、おそらく戦争を止められたでしょうね。
渡部 岡崎さんが、絶対にこの人は首相とか外務大臣にしてはいけないという人は、 日米関係を誤る人なんですね。
岡崎 そういうことですね。これはご本人には申し訳ないんですが、政治評論というものは、やはりそこまで書かないとわからないですよね。 そうしませんと、そろそろ順番だとか、まあ妥当なところだとか、そういうことで 決まってきますからね。
私はあれを書かせていただいて、賛成の方からずいぶん支持をいただいたんですが、逆に加藤紘一さんをかばう人もいるんですよ。かばう方の理屈に、私は本当に 失望しましたね。どういうことかと言いますと、言っている内容がみんな同じなんです。「加藤さんは何もあそこまで言っていない」とか、「もっとムニャムニャと言 って、あれだけはっきり言わなかったはずだ」とか、「新聞にはそう出たけれども」 、とかね。そういう言い方なんです。私が言っているのは、そういう考え方が悪いと言っているんです。
渡部 失言とか表現が悪いのではなくて、そもそもの考え方ですね。
岡崎 考え方が悪いと言っているんです。もし考え方を隠してムニャムニャ言ったな ら、もっと悪いんですよ。私の考え方としては。 ところがいまの世の中にはそういうことがないんですね。「失言するような人間だから総理の資格がない」と。そうするとみんな、そんな失言をするような人じゃない と。そのレベルの議論になっちゃうんですね。
渡部 もっと考え方の基本問題として考えなければいけないということですね。
岡崎 そうなんです。それを誰も議論しない。支持してくれる人は議論しますが、( 加藤氏を)ディフェンドする人が議論しない。議論してくれればいいんですが。 あそこに書いてあるとおり、湾岸戦争の時ですが、ほかの国の兵隊はみんな危険をおかして守っているわけですね。「日本人だけは危険にさらすわけにはいかない」とかね。
最近ですけれど、「日米中は等距離の三角関係だ」と。「そういう考え方が理論的 に正しいんだ」という反論ならわかるんです。そうではないんです。 ご本人と私はまだその後接触するチャンスがないんです。ですからお話を伺っていないんですが、あいだに立って弁護する人が、「いやそこまで言ってないんじゃないか」とか、「もう少しぼかして言っているんだろう」とか、いやですね。 それで日本の現在の知的環境というものがいかに濁っているかと思いますね。
渡部 ちゃんと理論を立ててやれば、理論同士でぶつかって、どうであろうといちおう尊敬されると思うんですけれどね。
岡崎 まあ、ご本人は別に何も言っておられませんからね。だから、一面で皆さんか ら励まされて良かったと思う一方、他面ちょっとがっかりしているんです。
日米同盟
渡部 日本にとっていちばん大きい問題は、外交関係では日米関係と日中関係ですね 。これを同じ三角形にしたら危ないということぐらいはわかる人でないと外務大臣や 首相にしてもらっては困るということですね。
岡崎 私はそれがいちばん心配なんです。いま国際政治があまり議論されないんで す。というのは経済問題ばかりで、世界中で経済問題ばかり議論している。 経済は大事なことです。大事なことなんですが、いまの不景気がどこまで行くか。 昭和恐慌というのはひどかったですからね。金融恐慌で、大恐慌の影響があった。 ですが、それで日本は滅びていないんです。これは四、五年経ったらちゃんと回復し ているんですよ。
日本が滅びたのは、結論からいえばアメリカと戦争したから滅びているんですよ。
渡部 それだけが滅亡の原因ですね。
岡崎 こういう国家の大戦略とか安全保障というのは外側の壁なんです。外側の壁さえしっかりしていれば、中で多少動揺があっても……。あっていいとはいいませんよ 。みんな一所懸命やっているんですから。しかし、それは外側の壁さえしっかりしていれば守れますよ。ところが外側の壁を崩したら、中がいくら繁栄していようとどうしようと、これはもたないですよ。その外側の壁が、少なくとも私の考えというか、 いまの日本の主流の考えでは、日米同盟が主軸なんです。
渡部 そうですね。
岡崎 そうでなしに日米同盟を薄めてしまって、他の国との関係と同じようにしてし まおうと言ったら、外の壁が崩れますよ。そうすると、日本の国の安全、生活、繁栄 、これら全部が脅かされますよ。
渡部 われわれ、戦前を多少知っている人間にとっては、明治の後半からずっと長く続いた日本の繁栄のもとは日英同盟にあったわけですね。それを外すと、どうにもならなくなるんですね。
岡崎 どうにもならないんですね。日英同盟は何がいいかというと、結局イギリスが世界中の情報をもっていて、しかもこれは自分の国が全部領土をもっているからです が、現状維持なんですね。どうやったら現状維持できるかと、いつも世界中に目を配りながらやっているんですよ。それとつき合っていますと、世界中のことがわかるんですね。
渡部 いい情報が入る。
岡崎 スパイが持ってくる情報なんていうのは大したことがないんですよ。それは一 次情報といいまして、それをどう判断するかが大事なんですね。判断するのにいちば んいいのは、資質のすぐれた人、諸葛孔明みたいな人が先まで見通して判断してくれればいいんですが、やはり有識者として自分の判断を作って、これでいいか、どうだろうとぶつけてみるのがいちばんいいんですよ。相手もすぐれた人に。それが、アングロサクソンのパートナーがあって、いつもぶつけるという形になっていますと、判断を誤らないんですよ。結局、何でもない話で、学校で秀才のグループとつき合っているとだいたい間違いないですよ。
渡部 出る問題もだいたい推測がつくしね。
岡崎 見当はずれの勉強をしないですよ。それを、例えばヒットラーとムッソリーニ みたいなごろつきとつき合ったら、入って来る情報にろくな情報がないですよ。だから何をしていいかわからない。素っ頓狂なことをするんですよ。その意味で、アングロサクソンと組んでいるということは、学校でいえば、いちばんできるトップの秀才 の仲間に入れてもらっているということですよ。
渡部 そういうことですね。しかもあの頃のイギリスよりも、いまのアメリカの方が絶対みたいなものですから、これを離れて三角形を作ろうというのはおかしいんですね。
岡崎 それはむちゃくちゃですよ。それはつまり、こっちには秀才グループがある。 こっちには不良グループがある。同じ人間だ。だから平等につき合いましょう、というのと同じことですよ。
渡部 そうですね。
岡崎 いまの小学校ではわりあいその論理が通用するかもしれませんよ。でも少なく とも本人にとって損ですよ。
渡部 そうですね。だから日本の首相と外務大臣は、いちばんいい人とつき合ってもらわなければ困りますね。やはり、そうでない人とはつき合わないというわけではないけれど、つき合い方の質が違ってこなければいけませんね。
岡崎 そうです。だから日米同盟が軸で、あとすべての国と仲良くする。これはこれでいいんです。
渡部 そうですね。軸さえ崩れなければ。
岡崎 ええ、軸さえ崩れなければいいんです。
中国とのつきあい方
渡部 そこでもう一つの日本のつき合いの相手として大きく出て来るのは中国ですね。クリントンさんの訪中というのは、われわれから見るとどうもあまりいい気持ちのものではありませんでしたね。
岡崎 あれには不思議なことがあるんです。ひとつは、中国に来るのがいい、まっすぐに来てまっすぐに帰れと、途中で立ち寄るなということを中国が言ったというんですね。それをアメリカが受けたと言うんです。これは摩訶不思議(まかふしぎ)な話です。どうしてそういうことになったのか。もっぱら噂がありまして、本当か嘘か私は聞いて歩いたんですが、どうも本当らしいですね。
渡部 クリントンさんは弱みか何かがあるんですかね。
岡崎 弱みは、11月だったものを6月に繰り上げたことですね。繰り上げたのは、例 のスキャンダルとの関係もあるというんですが、それは憶測です。繰り上げたときに 、中国が若干、いやそうは言っても、といってじらしたんですね。それで条件を付けたのが、アメリカと中国は対等である。だからこの前の江沢民の訪米とまったく同じ条件にしろと。江沢民はアメリカに九日いたんです。だから九日いろと。それで行きも帰りも直行しているんです。だからその通りやれということなんですね。
渡部 そういう解説は、僕はあまり新聞では見ませんでしたね。
岡崎 それはないですね。
渡部 そうちゃんとやってもらえば、なぜ9日間中国にいて、そしてなぜまっすぐ帰ったかよくわかるんですけれどね。
岡崎 ただ、そういうことを聞く必要は何もないんですね。不思議な話なんですね。 そんなことは大したことじゃないんです。いちばん変なのは、この関係で新聞などで 問題になっている話で、スリー・ノー政策というのがあるんです。
スリー・ノー政策
渡部 台湾に対するスリー・ノーですね。
岡崎 そうです。最初のノーは、いままでアメリカが言っていたことを全部まとめ るんですね。「二つの中国、一中一台の政策」、これを支持しない。これは実はアメ リカが正確に言っているのは、二つの中国の政策を追求しないと約束しているんです 。だから台湾独立を支持したり、国連で台湾加盟のために動いたりすることは支持し ないと言っているだけで、現に二つの中国や、一中一台ができた場合にどうするかと いうことは約束していないんですね。それがいつの間にか支持しないということにな っている。これが最初のノーですね。
二つ目のノーは台湾の独立を支持しないということです。 三つ目ノーが、表現はゴタゴタしていますけれど、台湾の国連加盟を支持しないということです。この三つのノーをクリントンが言ったというんです。 それをまた私は調べてみたんです。今度の訪問の記録を全部調べたんです。そうすると最初の首脳会談のあとの記者会見では何も言っていない。そのあとは政策スピ ーチというものをやる。これは北京大学です。ここでも何も言っていない。その あとで上海図書館で有識者との懇談があるんです。これは科学、文学、消費者代表という集まりです。その時にもともとの予定にないアメリカ研究者が入って来るん です。それで変な質問をするんですね。それが「米中関係はいい。米中関係は日米 関係よりも大事になる」と言うんです。
渡部 質問者がですか。
岡崎 質問者が言うんです。
渡部 しかし変な質問ですな。
岡崎 質問というか自分の意見を言うんですね。それに対する答えとして、クリン トンがそのスリー・ノーを言うんです。変なんですよ。しかもその言い方が、「確かに米中関係はいい、大変いい。実は私は、過去二年間のあいだにスリー・ノーを言 うチャンスが一度あった」と言うん。しかし、そのチャンスがいつだったかは何も言 わないんです。不思議でしょう。
だから今度の会談では言ってないんでしょうね。この前、江沢民がワシントンに来 たときにクリントンがそれを言ったんでしょう。言ったけれども発表していないんですね。そういうことを言ったことがあるよ、という言い方をしているんですよ。 これは相手を考えれば、「スリー・ノーを言え、言え」と迫られて、ちゃんとした会見でも言わない。もちろん共同声明なんかで言わない。演説でも言わない。最後の中国本土を立つ前の何でもない懇談会で、言ったというよりも、「言ったことがある 」と言っているんだ。不思議な話でしょう。とても不思議な話なんです。 それを、しかし言ってしまったものは言ってしまった。言ったということを認めたわけです。それを、新聞によると、(次の日中首脳会談では)日本政府も(スリー・ ノーを)言えということなんですね。
スリー・ノーの本当の狙い
渡部 今度江沢民さんがいらっしゃいますね。それを日本に言ってもらいたいわけですか。
岡崎 新聞によると、共同声明に書けと言っているというんですが、それは本当か嘘かわかりません。日本が断ったと書いてある。
渡部 もしそんなことを言われたら断るのが当然で、だいたい言ってくるのがとんでもない話ですね。
岡崎 ですからそれを断るのは当然なんですが、問題はそれじゃないと思いますね。 もっと細かい話で、そんなことを日本が断ることは知っていると思います。アメリカでさえも、共同声明に書かない、公式の声明に言わない、チラッと言ったことがあると言っただけでしょう。そんなものを日本が共同声明に書くわけがない。だからそれは最初の要求で、そこからだんだん降りて、どこかで日本に台湾の独立を認めないということを言わせたいんでしょうね。
渡部 僕が心配なのは、そういうクリントンさんが言ったことがあると言ったということ、あまり公式の場でもないようなところで言ったのをフレームアップしてワ ーッと大きくして、煽り立てるマスコミがいそうである。それに動かされる政治家 がいそうである。これが心配ですね。
岡崎 それは現に、いまそうなっているわけです。それで、江沢民さんの訪日も近いんですが、台湾問題については、日本は何もサービスする必要はないですね。
渡部 別に中国に、日本が今やってもらいたいことはあまりないわけですね。お願いすることは。
岡崎 まあ、交換条件という意味でもね。
渡部 国連の常任理事会に入りたいんだけれど、入れてくれないかというぐらいのも のでしょう。
岡崎 そうですね。ですから、外交というのは、あまり余計なことをしない方がいいですね。結局唯一の理由は、向こうがあまりしつこく言ってくるからこのくらいまでは呑もうというだけの話ですね。そういう外交はしない方がいいですね。単にしつこく言ってきたからというだけの理由でしたら、そういうのはやめておきましょ うと。そうしないと、あとでいろいろ妙なことが起きますよ。
余 談
渡部 しつこく言ってきたからといって、言うことを聞かなかった例として、三国同盟時代に、ナチスドイツが日本にユダヤ人を取り締まれということを言ったのを、 日本政府は最後まで断り通しましたね。
岡崎 そうですね。
渡部 これは立派でしたね。
岡崎 あれは誰が言ったんですかね。八紘一宇の精神に反すると言ったんですか。
渡部 という言葉を使った人もいるようですね。
岡崎 天の下がひとつの家なので、世界中一視同仁なんだから、人種によって差別す べきではないと言った人がいたそうですね。
渡部 僕はもっと外務省がそのことをちゃんと言うべきで、杉原千畝さんが、ビザで 数千人を救ったということは立派なことなんだけれど、日本政府の意志に反して救っ たというようなデマは日本にとって有害ですね。考えてみますと、たとえ杉原さんが サインしたとしても、日本政府の方針として、ユダヤ人を迫害するつもりであったら 、敦賀に上陸させないわけですからね。そんなことは考えればわかるのに、なんとなく杉原さんのワンマンプレイになって、日本政府の反対にも関わらず、ここに英雄がいて助けたというのはちょっと違うのではないかと思うんですね。
岡崎 ユダヤ人を迫害するという政策は日本にはなかったですね。
渡部 全然ないですね。これは僕はもっと外交資産として使った方がいいと思うんで す。というのは、私が今ちょっと不安に思うのは、今アメリカにはチャイニーズ・ア メリカンズとユダヤ人が変にくっついている面があるんですよ。これは南京の問題を ホロコーストと結びつける運動がアメリカで進んでいるということの証拠なんですね 。これはバサッと断ち切らなければいけないんですよ。
岡崎 それはつなげる必要は何もないですね。
渡部 しかし現象としては、つないで運動したわけですね。これもやはり、あれは大 戦を通じてナチスドイツの度重なる要請にも関わらず日本は人種差別をしないという 方針を貫きました、ということをもっと宣伝する必要があるんじゃないですか。
岡崎 ホロコーストは、ユダヤ人に対しては、あの頃はちゃんとした証拠もあります し、政策的に殺すんだといって殺していますし、これはユダヤ人は決して許しません 。これをユダヤ人に対して弁護したらたいへんなことになります。それは間違いない ことです。ですけれど、ホロコーストと南京は...。虐殺はあちこちでありますから ね。ソ連軍の満州でのあれとかね。やはり、アンタイファシズム史観でしょうね。
渡部 それよりも僕は、チャイニーズ・アメリカンズが、今のユダヤ人の人たちは当時のことをあまり知りませんから、あたかも南京問題がアウシュビッツと比較し得るがごとき幻想を作り上げているわけでしょうね。
岡崎 しかしユダヤ人の団体がそんなものに乗りますかね。
渡部 乗ったんです。しかも今もいろいろ努力する方がいて、ユダヤ人は降りるんじゃないかと思いますね。
岡崎 もとはナチズムと日本の戦時体制を一緒にしてファシズムと呼んだその思想の流れでしょうね。それがまだ生きているんでしょうね。生きていますよ。時々そういう人に会いますよ。いま70半ばぐらいから上の人ですね。アメリカ人でもいます。
渡部 だから日本の戦争中の対ユダヤ人政策なんかは、もっと本気で宣伝する方法は ないですかね。
岡崎 ユダヤ人問題を取り上げて、ナチズムと日本の戦時体制との差を言うというのは、ひとつの方法ですね。
渡部 非常に重要だと思いますね。アメリカだってイギリスだって、戦争中はユダヤ 人の避難民が船でやって来たものを追い返すということをやっていますからね。日本 はそれをやらなかったんですからね。日本の方が立派ですよね。
岡崎 それは昭和史のひとつのいい点だと思いますね。
渡部 これはぜひ、岡崎さんの大昭和史に特筆大書していただきたいですね。ユダヤの人たちは、世界中に物書きがいて、メディアを握っていますでしょう。この人達が正しい認識を得てくれるということは、日本の国益のためにもなるのではないかと思 いますね。
岡崎 そうですね。
渡部 これはぜひお願いしたいと思います。どうもありがとうございました。
〈以上〉
解説:この岡崎久彦の「不安な加藤氏の言動」は7月14日の産経新聞「正論」に 掲載され、The Japan Timesに翻訳が掲載され、日本国内だけでなく、ワシントンなど海外で大きな反響をよんだ論文である。なぜなら、この論文が、自民党幹事長加藤紘一氏を、「今のままでは総理、外相にしてはいけない。」とはっきりと主張したからである。
筆者は、加藤氏の安全保障問題に関する識見を過去の言動から分析し「私は自民党 幹事長加藤紘一氏の言動には重大な危惧を持っている」と結論している。過去の言動の事例は限られたスペースで3点挙げられている。 第1は、湾岸戦争時の加藤氏のハワイでの発言である。加藤氏は、日本人を危険に 曝すことは出来ないとセミナーで発言したが、セミナーの現場に居合わせた筆者は加 藤氏に「米国はじめ各国が血を流してもイラクの侵略をとめようとしている時に元防衛庁長官がそんな発言をしたらおさまらない。ここはハワイだから良いかもしれない が、米国本土に報道されたら大変だ」と直接注意したという。このときは「日本大使館と(米)国務省は愕然としたが、(米)議会が休会中だったため大事に至らなかった」という。
第2は、最近の台湾海峡へのガイドライン適用除外についての加藤氏の発言である 。「それを言うだけでも日米同盟を日本が真に守る気があるかについて疑いを起こさ せ、日米信頼関係を損なう」と筆者は論じている。 第3は、最近加藤氏が日米中等距離の三国関係を主張したという挿話である。これ については、筆者は「ここまで来ると、加藤氏の発想は単なる思いつきや理解の浅さ でなく、その基本的考え方から来るものとしか言いようがない。」と論じている。 加藤氏の基本的な考え方とは何か。筆者はそれを「戦後左翼の空想的平和主義と同 根のものである」と表現している。そして、一般社会では、そういう日教組教育を受 けた人達でもだんだんと責任ある地位につくにつれて、現実に目覚めでくるのが常であるが、加藤氏は外務省において課長や次席となるまえに組織の外へ出た人であると して、加藤氏の思考形式が全しようとしている。
この論文の結論は、次のように書かれている。「加藤氏は今のままでは総理、外相 にしてはいけない。蔵相、通産相ならばもとより反対はなく、政界の顕職を歴任されることに祝意を表したい。しかし、加藤氏が今の思考の習慣を変えないかぎり、総理 、外相とするのは重大な危険を冒すことになり、国を誤る惧れがある。三木武夫が総 理となった二年間だけで、防衛計画の大綱、GNP1%枠など、その修復に何年も要す る防衛政策のゆがみが生じた、修復出来るものならまだ良い。もし、日米同盟が弱体 化されれば、あるいは、それは日本にとって、もう修復不可能な破局への道となる惧れがある。」
なお、この論文の冒頭は、次のように書かれている。「他人に対してはっきり否定 的なコメントをするのは勇気を要する事である。しかし、一言それを言わなかったた めに歴史の流れが変わり、国を誤った例もある」事例として紹介されているのは昭和 6年、荒木陸相誕生の挿話である。
(以上)