PHP研究所発行「Voice」1998年10月号掲載

核拡散防止とTMD導入--いまこそ核兵器非保有国日本はTMDの開発に参加せよ--



宝珠山 昇
(杏林大学大学院非常勤講師)


誰も「拡散」を止められない

 クリントン米国大統領の7月初旬の訪中を前にして、5月中・下旬に、相次いで行われたインドとパキスタンの核実験は、NPT(核拡散防止条約)やCTB T(包括的核実験禁止条約)などの核拡散防止体制の有効性に対するかねてから の不安を現実のものにし、「核の傘」に対する不信を行動で示した。  国連安全保障理事会等は、以前からの形どおりに、この核実験を非難し、核拡散防止体制の堅持などを求める決議を採択したりしている。しかし、これらは、説得力を欠き、実効性には疑問が多い。経済制裁も足並みが揃わず、決定的な効果を期待できるものではない。これらの「見せしめ」は、両国が核実験の実施を決断するに当たって考慮した以上に厳しいのものではないように見える。  論者は、両国や核兵器開発疑惑国に対しては「軍事的制裁」を除くあらゆる手 段を動員して、CTBTへの加盟、核兵器の開発・配備の中止、核分裂物質の製造の中止、関係国との対話の増進などを図ることを提唱している。  また、核兵器保有五か国に対しては、CTBTでも禁止されていない「未臨界核実験」などの自粛や核兵器削減やCTBT批准の推進を要請したり、核兵器非保有国に対する核兵器不使用の約束をすること等を主張している。  さらに、これらの対話を推進する場を構想・提供し、核兵器の拡散防止、軍縮 実行の方途を明らかにすることが、「唯一の被爆国」であり、核兵器開発能力を 持ちながら非核三原則を堅持している日本にとって相応しく、意義深いことである等が強調されている。

 これらの努力により核拡散等が防止されることは望ましく、積極的に推進することが重要であることは言うまでもない。しかし、これらは、これまで繰り返し、主張され、試みられてきたことであり、その実効性は何ら保証されていないことを忘れてはなるまい。むしろ、これまでの核兵器の拡散防止努力の限界と核の傘に対する不信が、印パ両国が核実験に踏み切ったことによって改めて明白にされており、仮に成果があったとしても、拡散のスピードを遅くするだけように見える。これらだけでは、核兵器非保有国が持っている不信、核兵器による威嚇やその使用に対する不安を解消し得るものではない。  印パ両国の核実験により、いま、核兵器拡散の脅威がクローズアップされているが、この他に、BC兵器と高性能ミサイルの拡散の脅威も増加中である。日本での一昨年のサリン事件などは大量無差別殺傷の恐怖を世界に見せつけた。イラクのマスタ−ドガス弾約700発が行方不明との報道も見られる。  20国以上がNBC(核、生物、化学)兵器を既に装備しているか開発中であり、また、同じく20国以上が戦域弾道ミサイルや巡航ミサイル(いずれも射程数千キロメートル)を保有しているといわれている。北朝鮮は、射程が約1000キロメートルのノドン1号と見られる発射実験を日本海で行い、さらに射程の長い(数千キロメートル?)テポドンの保有も目指していることは良く知られている。これらは核兵器開発疑惑、ミサイル等の輸出の可能性、閉鎖的な体制、特異な行動等とともに、この地域の大きな懸念要因である。 こうして、NBC兵 器、即ち、WMD(大量無差別破壊・殺傷兵器)とこれらの有効な運搬手段であるM(弾道や巡航ミサイル)の拡散は、時々刻々進んでいる。一部の国が、これらの兵器や技術の輸出を外貨獲得の手段としていることが、この拡散を促進して いるのという不幸な現実もある。ことあるごとに、拡散防止などの決議、宣言、 条約などの綺麗な「言葉」が繰り返されるが、誰も、拡散を有効に実質的に止めることができないのが実態であり、現実である。  これらのことを考えれば、この種の努力に国の安全をすべて委ねることは、将来に対して無責任であるとの謗りを免れまい。わが国が、拡散防止、脅威の増大防止に、積極的に最大限の努力を傾注するのは当然のことである。今後は、この 実態・現実を踏まえ、わが国の経済力、技術力などを活用し、これまでの言葉による努力と並行して、「万一の対処」に有効な手段を開発することにも資源配分 を増加することを決断する時期にきている。それは拡散防止の力を強化・充実することに協力することになる。

補足−印の核実験の予知に失敗
 これまでは、核実験がどこかで準備されると、先進諸国がそれを事前に察知し、実験の実施を思いとどまらせた。北朝鮮等に対する各種の対応はその一環である。NPTは、そういう警戒・監視能力を持つ先進諸国が、有効な拡散防止努力を行うことを前提にして初めて、核兵器非保有国も批准できるものである。

 しかし、今回、インドの核実験を、どの情報機関も事前に察知できなかったようである。インドの核実験に先立つ4月6日、パキスタンが、最大射程1500kmの新型弾道ミサイルの発射実験を堂々と行い、情報収集、警戒監視の目をこの地域に注がせる前兆を示していたことや次のような周知のこと等を考えれば、これ は信じられないことである。

 東西冷戦が終結して暫くは、国連や米国を中心とする平和な世界秩序ができる と期待された時期もあった。が、湾岸戦争の勃発などで、この夢ははかなく消え、各国は、軍事力の充実を含め、その安全保障体制の改革、模索を続けている。

 そのなかで、中国は、経済、科学技術を振興し、国防費を増加し、核兵器を含む軍事力の近代化に注力し、香港の返還を勝ち取り、クリントン大統領の訪中に象徴されるように対米関係や対露関係も改善し、南支那海へ進出するなど台頭している。

 他方、インドは、中国と対立関係にあり、東西冷戦の下ではソ連と友好関係を持つことによって中国を牽制していたので、ソ連の崩壊はインドにとって強力な後ろ盾の消滅を意味し、これらは、安全保障上さらに困難な状況に追い込み、核兵器保有に向かって駆り立てる動因となることは否めない。  さらに、ソ連の崩壊が先端技術兵器やその技術者の流出現象を引き起こした り、中国等がパキスタンなどの軍備充実を支援していることも報じられている。

 また、北朝鮮の93年3月12日のNPT脱退宣言に対する関係国の対応ぶり、95 年12月27日、続く96年1月27日のフランスの核実験や、95年7月29日の中国の地下核実験に対する国際社会の形ばかりの対応ぶりは、核実験の決断を容易にするであろう。

 インドの核兵器保有を防止する有効な手立てを国際社会が示せないなら、抗争関係にあるパキスタンが核保有に向かって追走するのを避けることはできず、これが更なる連鎖反応を生み、NPT体制が崩壊する可能性があることも容易に想 定できる。

 いずれにしろ、核兵器保有大国等は、かねてから宣言されていた「疑惑国」の 核実験さえ予知し、防止する任務を果たせず、NPT体制の厚化粧を剥落させたことは否めない。 この他、幾つかの国の行動は、欺瞞・疑惑に満ちており、N BC+Mの拡散を助長していること、さらに彼等が置かれている経済状況・貧困 等が拡散を進める動機ともなっていること、(偵察・予知を)なぜCIAが失敗したか、中国は大量破壊兵器の拡散の張本人である(米国共和党トンプソン上院 議員)などについては、橋本光平氏の論考「印パ核実験の読み方」(PHP研究 所発行の「VOICE」誌1998年8月号掲載)、ウイリアム・シュナイダー氏 の考察(米国ハドソン研究所・1998年6月15日)、ウ−バ・パ−パ−ト氏の リポ−ト「印パ核実験が開けたパンドラの箱」(新潮社発行の「Foresig ht」誌1998年NO.6号掲載),その他の諸氏の労作を参照されたい。

核兵器は張り子の虎?

 わが国では、核兵器は張り子の虎と言われたり、米ソの核兵器削減交渉、NPT,CTBTの調印などで、その戦略的、国際政治的価値が低下しているとする、楽観的な見方がある。これらに対し、今回の印・パの核実験とその後の国際社会の行動は、これら条約等の実態が欺瞞に満ちたものであること、核兵器への信仰が生き続けていること、世界はこの両国の行動に直面し、誰もなす術を知ら ないこと等を明白にした。

 これらは、国際社会が、綺麗な言葉の横行とは別に、複雑な動因を持ち、不安定な要素を孕み、考えたくないことも起こる可能性があることを改めて実証し、 貴重な教訓をもたらしている。これらの教訓を踏まえて国家の経営を行うのが、 国政の第一義であり、防衛・安全保障の基本であることも世界の常識である。  しかし、日本ではこれらを忘れた発言がなお続いている。例えば、冷戦の終結により、理念や言葉の力(ワード・パワ−)が世界を動かす時代に入っている等 とし、防衛努力に水をさしたり、近年の沖縄の基地問題に関連しては、米軍の駐留は今世紀末で消滅させる、常時駐留なき安全保障体制を選択する、安保対話や 信頼醸成措置を充実しアジア多国間安保構想を推進して基地を削減する、等といった、その実現可能性と有効性を論議もしない甘い発言が見られる。  最近の「日米防衛協力のための指針」論議では、過去数十年にわたって注意深 く明確に事態の性格に着目して定義し用いてきている「日本周辺地域における事 態で日本の平和と安全に重要な影響を与える場合(周辺事態)」を巡って、「これに台湾等が含まれる」とか「含まれない」とか、地理的なものでは「ない」と か「ある」とか、他国の言動に振り回されたり、「自動参戦装置」とか、「事前協議制度はあっても、機能しないのではないか」などと、国政の担当者としての 自覚のない論議も見られる。

 華麗な言葉や条約の裏に隠された、世界の力の構造、安全保障体制なりの実態 を踏まえて、日米安保条約などが果たしている“平和と繁栄の維持向上装置”、“参戦事態予防装置”としての機能を向上させるための論議は少ない。これらは、日本国民を惑わせる、無責任な言動と言わざるを得ない。  東西冷戦終結の頃から確かに世界規模の戦争は遠のいた。ヨーロッパでは軍縮 が進められている。しかし、現在もなお、世界では8000億ドル( 110兆円)以上の軍事費が投じられ、現役2300万、予備役1000万以上の軍人がいると、推算できる。これは、冷戦期の80%位に縮減されただけにすぎない。米ソや欧州諸国が大 きく減少していることを考えれば、特にアジアでは増強、近代化が続いている。 小型、高性能兵器などの拡散も進んでいる。 今回の印・パの核実験は、国連や米国を中心とする現在の世界の秩序維持能力が及びにくい地域が、中東、南アジア、東南アジア、東アジアであることを、明白にした。また、これらが、西欧文 明とキリスト教を中心とするとも言える現在の世界秩序に対して、後進・貧困、 宗教、皮膚の色などをもって、挑戦している側面を含んでいることも見落とせない。宗教、民族等の対立や感情が絡むとき、その調整・解決が容易でないこと は、歴史の教えるところである。

 こういう中で、超大国、米国は、なお、世界の3分の1近い軍事費を、サミット諸国の約半分を、負担し、ズバ抜けた力を持ち、全世界に展開し、世界の保安官・警察官(この言葉を米国人は嫌うようであるが)の役割を果たそうと努力している。しかし、その米国も、軍の合理化・削減に見られるごとく、その力の相対的低下は否めない。米国の軍事力の合理化に比例して、力のある先進諸国等の 協力、支援の増加、相応の負担、集団指導体制の充実が期待されている。  日本は、資源小国ながら世界有数の経済大国で、その繁栄の基盤は、原油とシ ーレーンの安全であるといっても過言ではない。アジア諸国の経済発展、自動車 の普及、産業需要の増加などに伴い、石油市場での競争相手は増大している。わが国への原油の重要な輸送ルート上、海底資源の豊富な地域、南シナ海、南沙群 島等への中国の進出に続き、インド洋も不安定性を増している。  こういう中で、米国、中国、ロシアに囲まれた日本の生き方は、過去に不幸な歴史をもつ朝鮮半島等との付き合い方と共に大変難しい。国連は力がない。安保 理の改革が論議されているが、常任理事国や拒否権を持つ国が増えれば、適時・適切な意思決定ができなくなる、安全保障機能を果たせなくなる懸念さえある。

 日本はどうするか。日本の平和、独立、繁栄をいかにして確保するか。日米関 係をいかにして強固なものにして生きていくか。これが新世紀に向けての最大の課題であろう。

「TMD」に期待される効果

 良好な日米関係の機軸である日米安保体制は、第一は日本の自助・防衛努力、 第二は基地の安定的提供、第三は日米防衛協力、の三本柱で成り立っている。この三本柱のいずれとも関連する防衛体制近代化の代表はTMDの開発・整備への 取り組みであろう。

 先端技術の拡散等のにより、NBC+Mは、多数の国々が保有している可能性 があるといわれ始めて久しい。日本周辺にも沢山ある。これらのミサイル攻撃からの防衛は大変難しい。それでも、米国を中心として、科学技術を駆使して、その専守防御態勢の研究・開発が進んでいる。それがTMD(戦域ミサイル防衛) あるいはTAMD(戦域空中・ミサイル防衛)である。  この起源は、レーガン大統領が採択し、それがソ連を、核兵器削減交渉のテー ブルに付かせ、やがて、崩壊に導いたと言われている地球規模の戦略防衛構想、SDIである。この小型ないし地域版がTMDと言える。これは、例えば、北東や東南アジア、中東等の戦域、国境などの人為的な境界を越えた広域を防衛する装備体系である。攻撃能力を持たない、専守防衛を絵に描いたような装備体系だとも言える。海上交通の安全確保にも有効であり、わが国の防衛構想に相応しいものである。

 それは、例えば、ミサイルを発射すれば、発射国に落下し、自らに被害をもたらすことになる防空装備体系を含むものとも言われる。これが可能になれば、核 ミサイル等を保有する利益がなくなり、NBC+Mの拡散を防止する実効性を高 めることは明らかである。 この他このような専守防禦装備ができれば、次のような効果も期待し得るであろう。

 現在の核不拡散体制の脆弱さは、5つの国は、核兵器を持ち、その「引き金」 に手を掛けているが、他の国は核兵器を持てないばかりでなく、引き金に近付くことさえできず、核兵器を持てないように核技術の民生利用さえも監視、制限されているという不信・不平等感がもたらすものが大きい。しかし、核兵器保有国も、その「引き金」を他国に渡すことはできないが、TMD構想のような装備の 「引き金」であれば渡すことが可能になろう。核兵器非保有国が、そのような「引き金」に手を掛けることができれば、他国の核の傘の下にあることに伴う不満、不平等感は軽減し、国際社会の安定の度合いは増すであろう。 印パの核実験に刺激され、北東アジア等への連鎖反応、核武装ドミノ現象が懸念されるが、 TMDはこれに対する建設的な一つの解答となろう。  また、わが国の有事の場合に、米国大統領が、仮に大量無差別殺傷兵器による米軍兵士等の犠牲を恐れて増援を躊躇すると関係国が判断するような状況であれば、日米安保体制の抑止力は低下するものである。TMDのような装備を持っていれば、兵士を含む米国民の安全が高く保障されているから、そのような懸念がなくなり、容易に、大統領は救援を決意し、米国議会も国民もこれを支持するで あろう。即ち、日米安保体制の信頼度は向上し、この地域の安定の度合いは高まる。

 さらに、核兵器による攻撃に対する恐怖が大幅に減少するであろうから、核兵器による反撃のための即応待機態勢を緩和し、負担を軽減することも可能になり、したがって偶発的な核兵器の使用の危険性も低下しよう。大量無差別殺傷兵 器を使用するテロ行為から市民を防護するのも容易になるとともに、その種の行 為の抑制に効果があるであろう。

 このような装備の開発、装備には、大変な金と技術の結集が必要である。技術的にもまだいろいろと未解決の問題があり、ある分野の実験では失敗が繰り返されている。しかし、開発に失敗は付きものであり、実験の失敗は不可能を意味するものではない。米国も先進諸国の協力を期待しており、欧州先進国の一部はすでに参加している。

補足-TMDの構想
(1) 数百万平方キロメートル(地球表面積の数%) の広域と高度約千キロメートルまでの空間を対象として、(2) 宇宙を含む空中、洋上及び地上にC4ISR(指揮、統制、通信、電算、情報、監視及び偵察)ネットを設置し、(3) ミサイル発射情報を早期に探知、識別し、(4)  空中、洋上及び地上に配備した長、中及び短の各射程の要撃システムを以て、 (5) 被害を受ける圏内にミサイルが入る前までの極く短い時間内にこれを無 力化することを主目的とする、(6)大中小の茶碗を合せ伏せた形の多層迎撃装 備体系で、システムズのシステムである。

 長距離(上層)で迎撃する装備としては、THAAD(戦域高高度広域防衛シ ステム)、NTW(海軍戦域防衛システム)が中核である。中・短距離(中・下 層)でのものは、MEADS(中距離拡大防空システム)、イージス艦の兵器体系を中核にしたNA(海軍広域システム)やPACー3(パトリオット先進能力 3型)がある。打ち上げ初期段階(ブースト・フェイズ)でも、ミサイル破壊を狙えるものにはABL(空中レーザーシステム)などがある。これらの研究・開発が米国で高い優先順位のもとで進められており、その成果の一部は既に実用に供されていると考えられる。 これの地球規模のものは、大陸間弾道弾に対処し得るものとして構想され、SDIと呼ばれて推進され、ソ連の崩壊をもたらす重要な一因となった。現在、その 各種の成果は、TMDの開発には言うまでもなく、種々の装備品などに応用されている。現在、地球規模のものは、東西冷戦の終結によってその必要の度合いが後退しているが、NMD(国家ミサイル防衛)と名前を変えて、TMDに次ぐ優 先順位の下に開発が進められている。

傘の備えは主権国家の自由だ

 わが国がこれに積極的に取り組むについては、宇宙空間の平和利用に関する国会決議や集団的自衛権行使の規制緩和などについての国内調整、多額の経費負 担、中国の反発などが懸念されている。

 国会決議や自衛権行使の規制緩和の問題は、日本と世界の安全と繁栄のために建設的かつ実質的な貢献をいかにするかを真摯・虚心に論議し、いずれ克服しなければならない、残された戦後問題の一つである。  経費の問題は、日本の経済力を考えれば、負担が困難などと言えるものではな い。例えば、一説では約1兆円を要するとも言われているが、これは1年間で支 出する額ではなく多年の整備期間に要する合計額である。仮に10年で整備する とすれば、一年当たりの平均は1千億円である。この程度のプロジェクトは、防空戦闘機、対潜水艦哨戒機、イージス護衛艦等の整備において既に経験しているものである。既存の装備でTMD装備体系の一部に活用できものがあれば、年々の負担はさらに軽くなる。

 中国は、日本がTMDを研究等することについて、中国を敵視する、核ミサイル能力を無力化する、台湾防衛に利用する等といった趣旨で反対をしているよう であるが、これは、自らの覇権国家性を広言しているに過ぎまい。

 日本では、雨には昔から、箕を付けたり、傘をさして身の安全を確保しつつ、 田植えなどの業務に従事してきている。日本のTMDの研究は、ミサイルの雨が 降った場合に備えた傘の準備をしようとしているに過ぎない。TMDは、他国が 日本に向けてミサイルを発射しない限り役に立たない、他国を攻撃するのに有効 なものではない。

 日本周辺には、わが国を攻撃し得るミサイル等を持った国が存在する。北朝鮮がそのようなミサイルを少なくとも開発していることは1993年5月下旬に行われた日本海での発射実験によって証明されており、日本国民は懸念せざるを得ない。このような状況のもとで、いかなる傘の備えをするかも、米国との安全保障 体制を選択するのも、主権国家の自由である。中国は、梅雨のごときミサイルの雨を降らせる能力を既に持ち、さらに、その能力を着々と充実・近代化している。その中国に、傘の備えを持つなといわれるのは、主権侵害、不当、悪意の干渉以上の何ものでもない。

 日本は、先進諸国と共同してTMDを中核とする専守防禦装備の開発を推進し、これを最小限の負担で、できるだけ早期に配備して、万一のミサイル攻撃にも友好諸国と共同して対処し得る態勢の構築を真剣に検討するのが賢明な選択であると考える。

 TMDは人為的な国境を超えた広い区域の防衛装備体系であり、共同運用が効率・効果ともに優れていると考えられるシステムであるから、そのことを個別・ 具体的に互いに検討、協議すれば、日本が自衛権行使の自己規制を緩和することについても、わが国の意図について誤解されることなく、好意的な理解が得られ 易くなる効果も期待できる。

 今のままでは、多国間安保協議といっても、例えば“貴国が攻撃された場合には日本は武力を以ての支援はせず基地提供、後方支援、経済的支援などをするこ ととし、他方、日本が攻撃された場合には貴国は---の支援を行うこととする”として行うこととなろうが、それでは、有効な信頼性の高い安全保障体制はできない。

 こうして、TMD配備の検討は、自衛権行使の規制緩和の問題を克服し、アジ ア地域多国間安保構想の協議などの進展を期待し得る基盤・交渉力を醸成するこ とになろう。もちろん、これらの努力は、NBC+M兵器の拡散防止に貢献し、 この地域の安全を高めるとともに、基地負担の緩和等に寄与し、日本に対する評価を上げ、侮る行為を減少させ、独立と平和と繁栄の度を高める。(1998年7月25日草稿、8月19日一部修正)



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