第1。国家の独立は、その時に属している国家に対する反逆であり、その国家に対する反抗力と事後の防衛力を必要とする。時に国外に強力な支援者を得て行われる。多くの場合沢山の血が流れている。第二次大戦の後にアジアやアフリカの多くの国々が、ソ連崩壊の後に幾つかの国家が独立を遂げた。いずれの場合も 多くの犠牲と困難を伴っている。いまも、世界には、台湾、中国の自治区、ケベ ック州などの独立運動も見られる。
しかし、沖縄の独立は、古くにはあったが、いまや死語になっていると思う。 三十年近く前の沖縄返還の時は、環境としては比較的恵まれていたと思われる が、多数の支持は得られず、日本への復帰が選択された。今では県民の圧倒的多 数が日本に復帰してよかったと評価している。いま沖縄県民が独立を本気で真剣 に考えて、運動しているわけではない。どこかの国なりの支援を得ているとも思 われない。
この2年間の基地返還などの要求行動は、異常に大きく見えたかも知れない。 しかし、基地地主の大部分は賃貸借契約の更新に冷静・円満に応じており、これを強く拒否しているのは極くわずかで、自由民主主義国家では存在してもおかしくないものである。
今回出た独立論は、この一部の反基地闘争や利益誘導策の色を濃く含むもの で、国際社会に存在する独立論とは全く異質のものである。関心を持つ諸国が誤 解しないよう希望する。
在日米軍の撤退はアジアの安全を脅かす
第2。冷戦が終結した、アジア太平洋地域多国間安保協議も行われていると し、また、沖縄の基地の75%は海兵隊が管理していて、事故や事件が多いのも海兵隊だとして、もはや基地も海兵隊もいらない等、と言う人々もいる。 東西冷戦はヨーロッパを中心とするものであったから、NATOの東方拡大さえ進んでいる今、世界の耳目は、東アジア、特に、世界の人口の2割を抱え、発 展している大国・中国の改革開放と軍事力の増強行動に集まっている。冷戦の原因を作った、第2次大戦後の、半世紀ほど前の、ソ連の好戦的行動を想起するとき、中国がそのような道を歩まないことを期待する。米国などはいわば柔軟反応戦略を採っている。また、資源、領土、民族、宗教的な原因による紛争が顕在化 し、高性能・大量破壊兵器の拡散が進んでいる。 こんな世界にあって、米中露などの大国に囲まれ、その生存と繁栄を海上交通路の安全に大きく依存しているわが国の、独立と安全をいかにして確保するか、 それが国の最大の課題だ。
国際連合の安全保障機能は頼りにできない。アジア地域安保は、実体がない、 国益の多様性などを考えるとヨーロッパのようにはいかない。日米安保に変えて日本の安全保障をこれにかけるわけにはいかない。また、アジア多国間安保も米国抜きのはあるまい。
安保協議、信頼醸成、経済協力等は重要である。しかし、こうした柔軟反応戦 略は、バランス・オブ・パワー、力の優位に裏打ちされている時に成功するのは 歴史の教えるところである。その中心となっている超大国・米国の力の相対的低 下も否めない。だが、世界の平和・繁栄、秩序維持における米国の貢献は、他国 によっては代替し得ない巨大なものである。 世界の軍事費の約3分の一を負担する強大な米国が、(1)情報収集、警戒監視し、紛争を予防し、(2)抑止し、(3)万一の事態に応じて対処し、(4)事後処理もできる「即応態勢」を採り、自国と同盟国の死活的な利益のためにはいかなる犠牲も 厭わず行動する決意と能力を持っていることを、誰の目にも明確に見えるように しておくことが、日本、アジアと世界の安全保障に最も有効で、欠かせない。在 日米軍、海兵隊はその重要な一環である。いまこの撤退を提起するのは危険でさえある。
これから先どうなるかは中国の出方、行動に大きくかかっているが、中国が民主主義国家として国際社会に仲間入りするまでにはまだ長い年月を要しよう。将来ともに、良好な日米関係、パワー・バランスを堅持することが重要、不可欠である。日本が基地機能を安定的に提供することが肝要である。
望まれる基地整理・縮小問題への現実的対応
第3。日米防衛協力ガイドラインの見直し、それに基づく研究などを推進し、 できるものからいわゆる有事法制等を整備する、いざと言う時に、基地機能の提供、米軍支援を円滑にできるようにする、それを共同訓練、基地の共同使用などを通じて証明することは、平素の米軍駐留を縮小できる可能性を高くしよう。 同様に、日本のこうした自衛権行使の規制緩和による国際協力の体制整備とその実証の努力こそが、基地の縮小のみでなく、地域諸国の共同防衛構想であるアジア地域安保の協議や、広い地域の防衛装備体系であるTMD(戦域ミサイル防衛)の検討や、世界やアジアの安定を進展させる必要条件の一つを満たすことになる。これらは相互に関連し、日本の独立と安全の度を高める。
第4。戦後半世紀が過ぎたのに、いまも沖縄の基地は過密だ、沖縄の基地は戦 争行為の中で強権的に取り上げられたものだ、早期に全面返還せよと、また、日 本政府は沖縄の基地返還の努力を怠っている等、と言う人々もいる。 確かに、過密であり、また、基地の整理、縮小は遅々としている。しかし、政 府がその努力を怠っているというのは一面的な主張である。沖繩返還交渉以来、 政府は努力してきた。特に近年、日米政府ともに大変な成果を上げている。 縮小が進まないのは、沖縄の指導者の基地問題への対応の仕方にも大きな責任がある。全面撤去の要求を掲げて、県内移設に強硬に反対する、このような硬直的な対応では、整理、縮小は前進しない。本土と同様に、障害の比較的少ないと ころへの移設は受け入れる、将来返還されたら県民のインフラとして活用しよ う、基地も産業と言った現実的な、基地と共生・共存する姿勢へ転換し、県の指導者が国に協力することが肝要だと思う。若い世代の活躍が期待される。
戦略的要地を力の真空にすれば侵略を招く
第5。沖繩の経済発展の遅れなどが基地があるからだという人々、また、一国二制度にすれば、あるいは、国がもう少し支援すれば、解決すると主張する人々もいる。
しかし、原因が全て基地にあるとするのはアンフェアだ。沖繩が水、労働力、 風土等で、他の県や発展を続けるアジア諸国と比較して優位にあるか、競争力はあるか、また、多額の補助金は、自立の力を根底から揺るがしている、依存心こ そ高めているなどとも言われる。内外の経済情勢の推移等も踏まえて、冷静・客観的に検証してかかる必要がある。
第6。かって琉球王国は武器を持たない平和愛好の国だった、沖縄に基地は要 らないと、言う人々もいる。しかし、これが独立すれば基地がなくなる、平和と 繁栄があると考えているとすればあまりに甘すぎる。 琉球国は、武器を持たなかった、即ち、国防能力を持たなかった時に崩壊した のではないか。防衛力を他国に依存し、いざと言う時に助けてもらえなかったか ら征服されたのではないか。冷徹に歴史に学ぶ必要があろう。 産業、工場等に立地条件があるように、基地にもある。東西冷戦終結後の国際 情勢は、沖縄の基地としての立地条件を、恵まれ過ぎるくらいに高いものにして いる。戦略的な要地を力の真空にすれば、早晩、軍事力によって埋められる。力 の空白は侵略を招く。平和と繁栄を確保すためには、コストがかかる、要地に基 地は避けられない。
いま沖縄の基地を撤去することは、日本の国益を損なうのみならず、沖縄に住む人々の安全と繁栄と福祉を著しく損なうことになろう。 (1997年8月記)