歴史に学ぶ:日韓防衛協力の問題点と今後の課題

「ディフェンス」2000年春季号、71-77頁

平 間 洋 一
常磐大学非常勤講師(元防衛大学校教授)

プロローグ

 一昨年10月の韓国海軍創立50周年記念観艦式の予行演習時に、旗艦「クアンゲトデワン」(広開土王号)の艦上で、次々と敬礼しつつ通過する韓国艦艇を眺めながら、 日韓の親交もここまで来たかと、時には韓国側と激しい論争を展開してきただけに感無量であった。観艦式に招待されたのは、北東アジアの安定や有事の日米安保体制の有効性を確保するには、日韓関係の緊密化が不可欠であると、岡崎久彦氏を長として始めた民間レベルの「日韓安全保障対話KJ-Shuttle」の一環としてであった。この会議は単に学者だけでなく、外務や通算省などの官僚、ジャーナリストや評論家、それに韓国の元軍人や元自衛官などから構成され、日韓の安全保障問題を検討することを目的としていた。二・五年前に慶應義塾大学(日本で最初に韓国の留学生を受け入れた大学)で開かれた第二回会議の後の懇親会では、酒の席ではあったが、韓国の若い学者から海上自衛隊の「おおすみ」はヘリ空母に改造可能であり、これれは竹島を奪回する目的で建造されたものである。また、もし韓国が北朝鮮に攻め込まれ、自衛隊が救援などに来たら、北朝鮮とは一時停戦し、まず自衛隊を撃退してから、また戦うなど言われ、改めて日韓和解や日韓協力の前途遼遠を感じたのは、一九九七年秋のことであった。

 次いで一年半前のハワイでの日米韓会議では、岡崎大使と私が、韓国側と歴史論争で激突し、論争は中に入ったアメリカ人が会議の決裂を心配するほど激烈なものであった。しかし、日韓防衛協力の進展は、その夜のプールサイドで生まれた。われわれの「『おおすみ』がヘリ空母というが、見れば判るだろう」。「次の会議は呉で行い、『おおすみ』を見せよう」。「希望なら新鋭の護衛艦も、そして江田島も見学しないか」との申し出を、韓国側が受けたのである。この知らせを受けた慶応義塾大学の小此木教授は、「本当に江田島に来るだろうか」。「江田島は韓国人には帝国主義のメッカと考えられており、韓国人が江田島に来るとは考えられない」ということであった。しかし、韓国人は「おおすみ」こそ不在で見学できなかったが、護衛艦を見学し、江田島では昼食時に孔魯明(元外務大臣・元駐日大使)が、幹部候補生に日本語で「日韓の未来は君たち若者にある」と、スピーチをした。それは韓国の現外務大臣が九州大学で初めて日本語で講演し、「日韓新時代の幕開け」と大きく報道された五ヶ月前のことであった。そして、この海上自衛隊の訪問が日韓の防衛協力を一段と 促進し、10月には北朝鮮の不審船などをめぐる「日韓海の協力図演」を鎮海近くの馬山で行い、呉のお礼として観艦式に招かれたのであった。

韓国人の対日観の問題点

 この観艦式には日本からも、「みょうこう」など三隻の護衛艦が参加し、韓国の新聞にも大きく報じられたが、昨年八月には韓国海軍と海上自衛隊の共同訓練が行われ、本年元旦には日韓首脳がテレビを通じて新年のメッセージを交換するなど、日韓関係は一段と進展した。特に日本では、金大中大統領の「歴史問題は解決された」との発言や、日韓ワールドサッカー共催なども具体化し、対韓感情はかなり改善され、 九九年四月の読売新聞の調査では、四六・二パーセントの日本人が韓国に親しみを感じていると回答した。しかし、韓国の対日感情は殆ど変わっていない。すなわち、昨年一〇月の韓国の有力新聞「東亜日報」の調査では、「日本が好き」と答えたのは九 ・六パーセント、「嫌い」が四二・六パーセント、「どちらでもない」が四二・六 パーセントで、「日本が好き」と答えた韓国人は一〇人に一人しかいなかった。また、「日本を信頼できるか」との調査では、次ぎに示すとおり、「信頼できる」が一 六・五パーセント、「信頼できない」が八二・六パーセントであった。

日本を信頼できるか

大いに信頼できる 〇・五

多少は信頼できる 一六・〇

あまり信頼できない  五一・四

全く信頼できない 三一・二

回答なし  〇・九

 しかし、なぜ、韓国の反日感情や対日不信感がこのように強いのであろうか。新潟産経大学講師の呉善花女史によれば、韓国人の反日感情が強いのは、韓国が朱子学 (儒教)を以て国を治め、中国以上に中華主義を奉じ、自らを小中華の中心と自負してきた歴史観にあるという。すなわち、小中華思想を奉じる韓国人にとり、日本は中華世界の周辺に雑居する野蛮な蛮族の一つであり、韓国は常に日本の上位にあると考えてきた。

 その一例を示せば、江戸時代には日韓親善も進み、日韓両国は相互に親善使節を交 換するまでになり、日本は韓国の使節団五〇〇名を江戸まで、多額の経費を使って賓 客として迎え入れた。 しかし、 韓国では日本の使節を釜山にとどめ、国書の受領も釜山を統轄する地方官吏にまかせ、一八七九(明治九)年に日韓修好条規を締結するま で、 約三〇〇年間にわたり日本の使節を首都京城に迎え、李王が謁見することはな かった。 この日本蔑視が最初に問題となったのは、一八六八年に日本が新政府樹立を 知らせる国書に、「皇上」や「奉勅」という言葉を使ったため、李王朝が国書の受け 取りを拒否した事件であった。それは、皇帝とは中国皇帝だけに許される称号であ り、「勅」は中国皇帝の「詔勅」を意味するのに、蛮族である日本が「皇帝」などという文字を使っているので、国書は受け取れないというものであった。そして、その後もこの感情が流れ続け、韓国では「天皇」という言葉を使う新聞は半数に過ぎず、 現在も李王朝以来の「日王」という言葉が使われている。このように、韓国人の対日反感は単に日本の植民地支配に由来するものでなく、その根底には歴史的な中華思想に基づく日本蔑視にあり、さらに、反日感情は劣等民族である日本に三五年間も支配されたという屈折した恨みが、その根底にはあるといわれている。

日韓防衛協力の問題点

 ところで、韓国人は日本の防衛協力を希望しているのであろうか。回答はノーである。調査母数が五〇人と少ないが、昨年九月の『SAPIO』の調査では、「ガイドラインにより韓国有事に日本が、後方支援を行う」ことには五四パーセントは賛成している が、四六パーセント弱が反対し、「集団的自衛権を行使し韓国を支援する」ことに賛 成する者は僅かに一八パーセント、反対は約四倍の七六パーセントに達している。ま た、日本の軍事的支援に関する質問でも、「期待しない」が五二パーセント、「期待 する」が三二パーセントであった。なぜ、韓国人は日本の防衛協力を期待しないのであろうか、それは韓国人が「最も軍事的に脅威を感じる国」として、北朝鮮六六パー セント、日本一八パーセント、中国八パーセントと、五人に一人が日本を脅威の対象に考えているからである。

 しかし、韓国人はなぜ、日本を脅威と考えているのであろうか。それは韓国人の対日歴史観にある。すなわち、韓国人は神話に属する神功皇后の三韓征伐から、秀吉の朝鮮遠征、国家意識の高揚によって江戸から明治にかけて高まった征韓論、一九〇五 年の韓国の保護国化、一九一〇年の韓国併合と、日本は隙きがあれば韓国を侵略しよ うとしてきたので、油断が出来ないと考えているからである。そして、この点から気になるのが、韓国海軍が潜水艦重視の軍備を推進していることである。韓国海軍は一二〇〇頓型の潜水艦三隻をドイツから購入し、現在は三隻をライセンスにより建造中であるが、さらに三隻のK級潜水艦をロシアの債務と引き替えに購入を決定した。潜水艦重視のこの海軍軍備は何を意味するのであろうか。韓国はどこの国が海を渡って攻めてくると考えているのであろうか。  防衛協力とは防衛協力をする国と運命を共にすることを意味するが、このような韓国と日韓運命共同体が構築できるのであろうか。現在こそ親日的大統領の出現と日韓世界サッカー共催もあり、日韓の和解が進行している。しかし、被害者と加害者との歴史認識も未だ完全には解消されていないし、最近では金大中政権の対日政策を軟弱外交と非難する声も聞こえ始めた。戦後五〇年の日韓関係を見ても、軍事政権であれ文民政権であれ、過去何回となく「未来志向の日間関係」という言葉が使われ、歴代大統領は日韓関係の強化を唱え、戦後半世紀にわたり借款を要求してきた。しかし、反日感情は沈静化しなかったし、さらに日韓両国の間にはに竹島問題や漁業問題など、多くの未解決の問題が依然として残されたままになっている。

今後の課題・戦略構築の必要性

 このように反日感情や不信感が強く、日本からの軍事的支援を望んでいない韓国のために、なぜ、日本は日韓の緊密化をはかり、防衛協力を推進し、さらに朝鮮半島有事に出動するアメリカ軍を支援するガイドラインを定め、アメリカ軍に協力しなければならないのであろうか。この疑問を解決し、その意義を理解しない限り、日韓防衛協力は砂上の楼閣に過ぎないので、以下、この問題を考えてみたい。協力しなければならない第一の理由は、日韓両国民がお互いに気に入らないと嫌い合っても、 物理的に引っ越すもとができない最も近い隣国であり、 日韓力国が地理的に運命共同体となっていることである。第二は日韓両国が民主主義という世界共通の政治システム、 共通の価値観を共有し、自由貿易体制(市場経済体制)で結ばれ、安全保障から政治経済まで運命共同体の関係にあり、アジア・太平洋の平和と繁栄のためには、日韓の連携が不可欠だからである。

 第三は韓国が民主主義を奉じ、アジアの平和と繁栄に対する責任を分担する国家となるか、かっての李王朝のように中国に忠誠を尽くす「事大主義」を掲げ、中国を中心とした中華体制下に入り、中韓両国が戦略的なパートナーとして日本を対象とした 戦略的協力関係を築くかが、日本の安全保障には重大な影響を与えるからである。これは陸続きで隣国と国境を接する韓国としては当然のことであるが、歴史をたどると常に、韓国の関心は北方の中国であり、ロシアであり、韓国は中国やロシアを頼って日本とのバランスを取ってきた。しかし、日本にとり朝鮮半島が日本に敵対する国の支配下に置かれたときには、元寇の例を挙げるまでもなく、日本の安全は大きな影響を受けたため、日本はそれを阻止しようと、しばしば兵を半島に送った。近世では清国の勢力を排除したのが日清戦争であり、次いで現れたロシアを排除したのが日露戦争であった。このように、近世に於ける日本の戦争は日本の安全を確保するために、 朝鮮半島をめぐって戦われてきた。それほど、朝鮮半島が日本に敵対する国に支配されるか否かが、日本の安全保障上重要な問題であった。富国強兵を国家目標とし西欧諸国とは異なる世界観を堅持する中国、旧ソビエット的な体質を深めつつある軍事大国ロシア、これら中ロ両国との戦略的バランスを維持し、北東アジアの安定を確保するためには、日韓の親密化が不可欠であることは、日韓の防衛協力を含む緊密化が、 北朝鮮のミサイル試射を中止させ、北朝鮮を日朝会談のテーブルに付かせたことからも、すでに実証されている。

 第四点はアメリカの軍事力の有効性が、日本の安全だけでなく、韓国の安全、 アジ アの安定に不可欠であるが、日韓の対立や反発が高まれば、米韓安全保障条約が効果 的に機能せず、アメリカの軍事力の有効性が低下してしまう。また、日韓の防衛協力 は日本の安全だけでなく、韓国やアジアの安定にも大きく影響するものであり、日韓 両国の感情論や狭義のナショナリズムのために、アジアの運命が決せられてはならないという国際政治の現実も理解しなければならないであろう。さらに、日本が韓国有事に協力しない場合には、「アメリカの若者が死んでいるのに日本は何もしない」 と、日米安保体制がアメリカの世論によって解消される危険性も含んでおり、韓国有事に対する協力は日米同盟の有効性の確保という観点からも考えなければならないからである。

 このように、日韓の緊密化や防衛協力はアジアの安定の基本であり、日韓両国国民 は世界的な視点を共有しているのであるから、いたずらに感情的な対立をあおる発言 を慎み、 韓国にはもう少し先を見ることをお願いし、 日本はもう少し後ろを振り返りながら、 相互に過去より未来を見つめつつ、互いに本音をぶっけあって、 アジアの平 和を維持する努力をしなければならない責務があるということも理解しなければなら ない。

 しかし、ここで留意すべきことは、日韓関係や日中関係は日本の実力と、日米関係 の強弱によって変動するということであり、さらに日本が信頼されるには、日本がど のような安全保障の枠組みを構築しようとしているのか、日本が日韓関係、さらには日中・日露関係の枠組みを如何に考え、どのように北東アジア、さらにはアジアの平和戦略を構築しようとしているのかを明確に示すことであり、さらに、周辺諸国の対 日信頼感を高めるには、明確に国家目標をさだめ、国益を示し国益を追求することである。なぜならば、歴史問題にしろ、竹島や漁業問題にしろ、国益を軽視して安易に妥協したのでは、信頼や友好関係は長続きするものではない。このプロジェクトにかかわった体験から言えることは、目先の気まずさや平穏を願って、事勿れ主義で妥協し、その場を凌いでいたのでは、真の信頼関係は生じないということであった。 (終)


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