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日米関係の今後 日本軽視へ傾く前に 岡崎久彦(寄稿)

by on 2007年12月29日 19:37



 ◇外交評論家 
 夏の参院選の自民党大敗と9月の安倍内閣退陣後、日本国内政局も混迷しているが、これが日本にとって死活的重要性のある日米関係にどういう影響を与えているのだろうか。
 一つの顕著な傾向は米国において日本に対する関心が薄くなったことである。福田首相訪米に際して米主要紙の中で、社説を掲げたのはウォール・ストリート・ジャーナルの1紙だけであり、それも拉致問題に関する日本の国民感情の尊重を訴えただけで、長期的な東アジアの外交戦略の観点から論じたものではなかったということからもわかる。

 むしろ、首相訪米の1週間前に、そういう雰囲気を予見して書かれた、ヘリテージ財団(上級研究員)のクリングナー氏の論文が米国の識者、特に知日派の認識と憂慮をよく表明している。

 それは、安倍政権から福田政権に代わったことに失望を隠してはいないが、それでも福田政権を冷たく扱ってはいけないと、福田政権、あるいは日本をかばっている論説である。

 「安倍氏と比べて福田氏は、米国が望んでいる、日本の役割増大に対する法的制約を除くことに積極的ではないが、このことが日米関係に必要以上の悪影響を与えてはならない」
 「ハト派的な福田政権の下で政策の大転換を予想する向きもあったが、福田氏は前任者の保守的アジェンダ(課題)は引き継ぐであろう。ただ、若干の修正は加えよう。例えば、憲法改正とか、中国封じ込めのための日米豪印協力などには前任者ほど熱心ではないであろう」

 「福田氏は、前任者ほどアメリカ中心ではないかもしれないが、日米関係を拒否するものではない。現にテロ特措法の延長にコミットしている。テロ特措法の問題は野党がこれを政争の具としているという日本の政治状況によるものなのであるから、その結果がどうなっても日米関係を害してはいけない。そんなことをすると、中国と北朝鮮の脅威から北東アジアの安全を守るために日本により大きな安全保障上の役割を持たせるという長期的目的を傷つけることになる」

 そして冒頭に、福田首相を「日本のコンセンサスをつくる人」という表題を付けて、良い妥協的な人選だという趣旨を表明しているが、日本のコンセンサスがどこにあるかというようなことはつめて議論していない。むしろ、福田政権に精いっぱいの好印象を与えるための表題を付けたというべきであろう。


 ◆集団的自衛権後退は禁物 
 さすが国際情勢の変化に注意を怠らない英国では、フィナンシャル・タイムズ紙が、2日にわたって解説記事を掲げ、福田首相は安倍前首相に比べアメリカが長く望んできたように日本が世界の問題地域で大きな役割をはたすことには乗り気ではないと分析する一方、自民党が昔の自民党にもどったという嘆きも聞こえるが、この事態を収拾するのに絶好のはまり役を見つけたという点も見逃すべきではない、とクリングナー氏とほぼ同様の観点に立っている。

 これが、現状において、米国の知日派が言える限度であろう。いままで通りの期待は持てない。しかし、東アジアの情勢を考えれば、日本を無視し、疎外するようなことをしてはいけない。アメリカの長期的目標は、東アジアにおける中国、北朝鮮に対するバランスとして日本により多くを期待することであり、そのための努力に逆効果となるようなことは厳に戒めて、福田政権を好意的に見守りたい、ということである。

 ただ知日派の意見だけではアメリカの思潮の流れはわからない。

 参考になるのは、最新のフォーレン・アフェアーズ誌に掲載された、民主、共和両大統領候補ヒラリー、マケイン両氏の論文の中の、それぞれの東アジア政策である。この2人でなくて誰が大統領になっても、アメリカの考え方はこの二つの範囲内であろうと予測して良いからである。

 ヒラリー氏の論文は、中国だけについて特に2パラグラフを割き、中国との関係が今世紀における最重要な2国間関係だと言い、日本については日中環境協力に触れているだけである。

 マケイン氏は、日本も含めて、アフガニスタンにおける西側同盟国の協力を称賛し、世界的な民主主義の連盟をつくることを提唱している。連盟と言っても、ウィルソン的なものでなく、セオドア・ルーズベルト的な、同じ思考の国々の協力である。この両者を対比するのはキッシンジャーの「外交」における基本的な発想であり、普遍的な多数国間協議機構でなく、同盟と言うバランス・オブ・パワー的発想で平和を守るということである。

 まさにこれに対してヒラリー氏は6か国協議のフレームワークの上に北東アジア安全保障制度を築くべきだという構想を支持している。この構想は日本としては、東アジアの安全保障の基礎が日米同盟よりも多数国間協議に重点が移る恐れがあるものとして警戒すべきものである。

 ただ、両者とも、日米豪印の協力については支持を表明している。とくにマケイン氏は、同じ価値観を持つ国々の協力であることを強調し、前政権の提案した「自由と繁栄の弧」にも言及している。

 さて日本としてはどうすべきであろうか。従来、私が日米同盟推進論を言うと、決まって次の反論が出て来る。「そんなにアメリカばかり頼りにしていても、アメリカの方がいつの間にか中国の方に行ってしまうんじゃないですか?」。1971年のニクソン・ショック、更に遡(さかのぼ)って第2次大戦のことを思い出すと無理もない心配である。

 これに対して私は常にこう答えている。「ご心配はよく分かります。それを回避する方法は二つに一つしかない。それは米中の仲を裂くか、日米同盟を強化するかだ。他人の仲を裂くのは、まともな人間のすることではない。とすると残る解決策は日米同盟強化しかない」と。

 同盟強化の方策の正攻法はまず知日派を挫折させず、勇気付けることであることは誰も異存はないであろう。そして知日派の期待するところは先の論説を見れば明らかである。
 現在日本の役割増大に関連する懸案として前内閣から引き継いでいるのは、集団的自衛権の行使と日米豪印の協力である。現首相は、「コンセンサス作り」の「絶好のはまり役」である点で、これを積極的に推進する姿勢でないことはわかる。

 ただ、少なくとも、この2点について、否定的、あるいは後ろ向きの発言は控えるべきであろう。それが知日派を挫折させ、日本軽視の方向に向かわせる最も手っ取り早い方法だからである。

 

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