岡崎久彦
真っ先にお断りしなければならないのは、私は郵政問題のことは何にも 分 からない。色々な人に説明をしてもらったが、賛成反対にそれぞれ言い分 が あるということしか分からなかった。
一番分かりやすかったのは、これだけ莫大(ばくだい)な時間と労力を 費 やして、実際はほとんど同じことだという反対論であった。
それなら私は同じ理由の上に立って賛成論である。
あえて理屈をつければ、新しいことなどは、そうしばしばできるわけで は ないのだから、せっかくここまで時間と労力を費やしてしまった以上、改 革 によって良い点は伸ばし、悪い点は抑える良いチャンスだというくらいで あ ろう。
ただし、本当は、私はそんな理由で成立を支持しているわけではない。
私としては、早くこの問題に決着をつけて、もっと重要な問題に取り組 ん でほしいのである。
日本の政治にとって、今から来年の九月までの一年間ほど大事な時期は な い。
参院選も衆院選も予定されていないし、来年九月の自民党総裁選でも小 泉 総理の再再選は予定されていないのだから、思い切った政策を断行できる 時 期である。
こんなチャンスは、あと何年後に来るかわからない。
もう一つ重要なことがある。それは、日本にとって近来まれな親日政権 で あるブッシュ政権が、まだ健在であることである。しかも、小泉総理との 間 には固い信頼関係がある。
近年の国際情勢の大きな地殻的変動によって、日本という国家にとって 極 めて重大なこと、たとえば、憲法の改正、集団的自衛権行使の容認、米軍 再 編成による日米同盟強化について、日本と中国の長期的な国益が必ずしも 一 致しない状況も生じている。
その場合、現在のブッシュ政権と小泉・ブッシュ関係ならば、米国の支 持 を完全にあてにできる状態にある。
こんなチャンスもまた、何時訪れるか分からない。私はこのチャンスを 逸 してほしくないのである。
もし法案が通過しないで総選挙にでもなれば、自民党が勝っても、また 数 カ月は郵政に費やさねばならない。
負ければ、小泉・ブッシュ関係はおしまいになってしまう。
そうなれば日本は千載一遇のチャンスを逃してしまうことになる。
私の議論の弱いところは、もし郵政が片付いても、小泉総理がこういう 大 きな問題に取り組むかどうか分からないではないか、ということである。
しかし、それは自民党全部の問題でもある。自民党が、その総意とし て、 集団的自衛権の解釈の変更、憲法の改正、消費税の値上げなどを実施する 気 持ちになるとすれば、小泉総理がそれに反対することはあり得ない。
実は、あまり気が付かれていないことであるが、小泉総理は、昨年九月 の 新内閣発足以来、集団的自衛権の行使の問題とか、消費税の値上げの問題 に ついて、それまでの内閣ではしばしば言ってきたように、「この内閣では こ の問題に決着をつけない」とは一言も言っていない。
すでに述べたように、私は反対派の方々の言い分も分かるし、それが悪 い とも言っていない。
ただ、あと一年、小泉内閣にフリー・ハンドを持たして温存すること に、 日本民族のあと何十年かにわたる国益がかかっているかもしれないという 大 きな利益の前に、従来の行きがかりを捨てて一致協力してほしいのであ る。
ついでに申し上げれば、この問題を乗り切ったあと、小泉総理には堂々 と 靖国神社に公式参拝して頂きたい。
中国は、もう反日デモはできない。今までの反日愛国運動があまりに成 功 しているために、それが全国的大衆運動になる惧(おそ)れがあり、自縄 自 縛になっている。
厳戒態勢の小さなデモでは意味が無い。せいぜい、日本、外国も含めて 言 論による批判を動員するぐらいであろう。日本は敗戦国として、ある程度 は これに耐えねばならないだろうが、そこまでである。今後毎年ということ は あり得ない。
むしろ希望的観測としては、かつてのガイドライン関連法にしても、今 回 の米国のユノカル石油会社買収問題にしても、中国はいくら言ってもダメ と いうことになると、あっさり言わなくなる国内統制力を持つ国でもあると い うことである。
(了)
※HP編集部註:本記事は郵政民営化法案の参議院における否決直前に発表されたものです。